『わがまま きまま 想うがまま』 日本本土から南に1000㌔小笠原諸島・父島から出発。 花鳥風月を感じ、カナダを旅していきます。

2016年9月16日金曜日

『ハイダ・ベアーに出逢う』

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ハイダ・グワイに住んでいる多くの島民は、
ハイダ・ベアーは安全な動物だと言う。

ハイダベアーというのは、ハイダ・グワイに棲むブラックベアー(アメリカクマ)の亜種のことである。

食性は植物食傾向の強い雑食で、
果実・種子・草・昆虫・魚類・動物の死骸などを食べる。

ごく稀に脊椎動物も食べるらしいが、積極的には食べないとされている。

自然が豊かなこの場所には、クマにとって潤沢な食料があり、

トレッキング中に人と遭遇しても襲わないというわけだ。


ただ、一人

声を大にして『そんなことはない』と言い切る女性が身近にいた。

私達がお世話になっているファームステイ先のホストだった。

私達は彼女の恐ろしい体験談を聞いた。

クマに襲われた場所は、今まさに私達が生活している母屋

数十年も前の話…実際に彼女は家族を守るために散弾銃でクマを撃ち殺している。
そのクマは数日前にトラックとぶつかっていたようで、
あばら骨を折る大怪我をしていたそうだ。

きっと痛みから、平常ではなくなって
人に対して怒りがこみあげて行動していたんだと言っていた。

私達とは意思の疎通が取れない野生の動物。

安全だと言われていても、

出会った時に相手はこちらをどう思っているのかはわからない。

そして、ホストはクマと対峙することになった時の対処法を私達に教えてくれた。


この時点では、

私達がのちに2度もクマに遭遇し、

そのうち1回は距離15mの近さで見ることになるとは思ってもいなかった。

      

毎週土曜日は私達が収穫した野菜・卵・コンブチャをマーケットで売る日。

ただ、お客さんはあまり来ず、とても暇だった。

そこで、私達は自由時間をもらって、近くのトレイルを散策することになった。


川に沿って歩くことが出来るトレイルで、常に潤いを感じる森だった。

    

森の中を進んでいくと、足元が一面瑞々しいほどの苔に覆われはじめた。

触ってみると、手が苔に包まれるように深く沈みこんだ。


歩いていると、森の中はとても静寂だった。

時折、大きな音が聞こえる。

ガサガサ

キュルキュルキュル

ガリガリガリ

音のするほうを見てみると、枝の上で食事をしていたリスがいた。


苔生した大地を眺めていれば、ぴょんぴょん跳ねるカエルを見つけることが出来た。

彼は私達の存在に気付くと、飛ぶのをやめ、じっとしながら私たちの動向を窺っていた。

私達も負けじと動かずに彼を見続けた。


苔生した大地に光が当たると、一筋のきらきら光る小さな道があることに気付いた。

その後を辿ると、緑一色の大地に際立つ色のキノコがあった。

彼らは際立つ色を無くそうと、忙しそうにのろのろと動き回っていた。


歩いていると視線を感じることがある。

森を見渡すと、私達よりも遥か上から見下ろされていたことがわかった。

彼らは羽を休めながら、私達を観察していた。

樹齢500年は超える巨樹は太い根を張り、ひっそりとたたずんでいた。

最初はその有様に惚れ、写真を撮っていた。

森を進むにつれて、

巨樹がそこかしこにあることに気付き、撮るのをやめた。

この巨樹たちから、どこか誇らしさを感じた。

羽を休める場所を、ときには食事を提供し、

突風に耐えられなくなって倒れたときは、次の世代の礎になる。

それが定めであり当然ではあるのだが、それでも彼らから誇らしさを感じた。


歩みを止めて、森を見渡す。

自分自身の感覚が冴えわたっていることに気付く。

この森に棲む動物たちは常にこの感覚を持ちながら生活している。

川を眺めながら、ランチをとっていた。

水の流れる音を聞きながら、水面を眺めていると

バキッ

枝が折れる音が対岸から聞こえた。



大きな身体からは釣り合わない歩く音の少なさ

それでもたまに聞こえる枝の折れる音と

彼が私達にむけた視線は

確かな存在感を感じることが出来た。

彼は私達をちらっと見て、さらに川をちらっと見て。

数歩川縁を歩いただけで、また森の中に帰って行った。

これが初めてのハイダ・ベアーの出逢いだった。


2週間後、同じトレイルを歩いた。

島民からは、ハイダベアーを見れただけでもとても幸運と言われていた。

滅多に逢えるものではない。

それでも、心の中では「また逢えますように」と念じながら歩いていた。


川縁をしばらく歩いていると、あることに気付く。

水の跳ねる音がそこらじゅうから聞こえていた。

よくよく川の中をのぞきこんで見ると、たくさんのサーモンが遡上していた。


コブの大きいサーモンは、

近づいてくる他のサーモンを追い払いながら、今か今かと焦りながら泳いでいた。

コブのないサーモンは力強く尾を振り、砂利をどかし、すり鉢状の産卵床を作っていた。

いま目の前の川の中では、熾烈なオス同士の戦いと、新しい命の誕生が見れた。


そんな様子を動画におさめることに夢中になっていたら、

また森の中から枝の折れる音が聞こえた。

音の先を見ても、まだ信じられなかった。


しかも今回は川幅15mの対岸、すぐ目の前にいる。

確実に彼は私達の存在を理解していた。

それでも、彼は私達の目の前に出てきて、川をのぞきこんでいた。


ぜひ、ここからは動画を見てほしい。

若い彼は、何度かサーモンを捕ることに失敗している。

最終的に捕まえられたサーモンも、彼にとっては予想外だったのか、

少し驚いているように見えた。

どこか愛らしく、ラッキーってつぶやいているようにさえ思える。



あとがき

2017年2月18日早朝に無事日本に帰国しました。
きっかり1年間、カナダを楽しんできました。
充実した時間を過ごし、また多くの学びと友達が出来ました。
感謝です。
残念なのは、このブログをいまこうして日本で書いている事。
そのときの想いを、可能であればその時点で残したかったのですが、
ハイダグワイではネット環境が整っておらず、どんどん先送りになってしまいました。
日記にしたためた想いを見返し、写真を整理しながら、ちまちまと書いていきます。
このブログを書き終わらなければ、
私の中ではカナダ旅は終わっていないようにも感じています。
(2017.2.22)

すだっち

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